■勝手な映画評(第43回) 『墨攻』
この作品に入る前に、最近観た映画から、『幸せのちから』は、題名を変えた方がいいと感じた。『お金のちから』と。
『モンスターハウス』は、悲しすぎる話だ。これを子どもに観せてどうするのだろう? 人間の心の醜さを表現するならば大人向けに創る作品だ(巨大女性への愛情があるならば、こんなストーリーにしてはいけないと思う。「愛」に対する価値観の相違を痛感した。スピルバーグの創造性にはやはり違和感を受けてしまう。彼の作品群を観ていると、彼の根底には「悲しみに満ちているものがあるのかもしれない」と思わずにいられない)。
■ 勝手な映画評(第43回) 『墨攻』 ■
◎総合評価: 60/ 100点
作品名: 『墨攻(ぼっこう)』 2006年/ 中国・日本・香港・韓国 / 133分』
監督・脚本: ジェイコブ・チャン
出演: アンディ・ラウ、アン・ソンギ、ワン・チーウェン、ファン・ビンビン、他
分野: ヒストリー/戦争
公開予定: 2007.2.3(土)より
( 物語 )
荒れ狂う戦乱(中国の戦国時代)の世に、侵略を否定し、攻撃せずに守り抜く「非攻(ひこう)」を掲げる「墨家(ぼっか)」という集団がいた。それは墨子により創設された「墨家十論」という思想が基盤であった。
大国である趙(ちょう)と燕(えん)の国境に位置した小国の梁(りょう)は10万の趙国の大軍に侵略されようとしていた。梁は生き延びる望みを墨家に託し援軍を依頼する。しかし、現れた墨家の援軍は、革離(かくり)ただ一人。
革離は、梁城のわずかの兵隊/農民ら老若男女たちを総動員し、城を守る「策」を提案する。
10万の大軍にどう対峙し、城そして梁の民を守るか、その秘策は「墨家」としてのプライドをかけ、見返りを求めず、命をかけて戦う。その姿は、一人の英雄を作り出そうとしていた。
この戦いは、墨家の革離と、趙の大軍を任された略士、巷淹中との戦略能力の優劣で決まる戦い、心理戦でもあった。
革離の思惑通り戦いは進むが、革離の敵は趙の大軍だけではなかった。人間の権力欲、嫉妬、恐れ、その闇の力こそ気付かぬうちに革離の下に迫ろうとしていた。反面、革離を信望し、人間の生き方、その思想に共鳴し彼に忠誠を持つ者たちも大きな力となって…。
( 寸評 )
墨家十論の中の「非攻」と「兼愛」をクローズアップした作品作り。
「非攻」は、侵略と併合は人類への犯罪。「兼愛」は、自分を愛するように他人を愛せ。
どう考えても、戦乱の世に合わない思想かもしれない。しかし、戦乱/混乱の世だからこそ、一方、理想を求めるベクトルが大きく向かうのかもしれない。
多くの世界宗教での「博愛」や「平和」を希求する流れにも通じるものがあるが、歴史的及び現況を観ても、宗教の根本教えに「愛」「平和」等々あげながら、その多くは戦争の歴史を持っている。キリスト教しかり、イスラム教しかり、仏教しかり、ユダヤ教しかり…。
この墨家集団、秦の時代に突如姿を消してしまったという。この史実の方が、何故かととても気になってくる。歴史、つまり人間がつくるものには「崇高な」ものはどうも時の「権力」と対峙し、けして勝つことがないのだろうか?
21世紀の現在を観ても、国の為政者たちのどれをとっても「崇高さ」には程遠い人たちばかりであるように感じる。
さて、映画である。この作品は、「男」の生き方をつぶさに見つめつつ、戦乱の世で栄衰する姿を「墨家」という、ある意味特殊な生き方から覗いてている作品である。
中国などの歴史のとても長い国には、その歴史から消された、あるいは忘れ去られたものが数多くあることを感じることができる。
歴史書などはどこも「勝者」が正史として編纂していくので、本当の姿からは歪んでいるところが多々あるのだろうな、と思う。
日本でも『日本書紀』などははっきりとその傾向があるものだし。
蝦夷とか、卑弥呼とか、何故、このような漢字を使用されているのかを考えていくと、権力者側の意図に通じるものなのかもしれない。当時、彼らは違う表現で自らを表現していたと思うのだ。
映画は、人間の機知や厭味など「人間」とはこういうものだという観点でそれぞれの人たちの行動を分かりやすく描いている。そして、けしてハリウッドではこういうラストはないという終わり方も、アジアらしいと感じた。
余談だか、「墨家(ぼっか)」という音の響きで、「歩荷(ぼっか)」と読んでいた山岳部でのリュックに砂を満杯に詰め込んで丹沢の尾根登り(急勾配)をする訓練(大嫌いだった…、笑)、「歩荷山行」を思い出してしまった…。
この作品も、ハラハラ、ドキドキ、結構疲労しますよ。(笑)
●お薦め度:(★5つが満点、☆は半星)
*アンディ・ラウのファン → ★★★★☆
*歴史ものスペクタルが好きな人 → ★★★☆
*戦略の機微に興味がある人 → ★★★☆
*暇つぶし →★★★
*デート → ★★
● 「劇場」 VS 「DVD」 (どちらで観る?のお薦めは…)
WIN:「劇場」
映像のすごさは大画面でしか伝わらない。
公式HP: www.bokkou.jp
【 鑑賞日 】 2007.1.29(月) 特別試写会 有楽町朝日ホール
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